大阪のマンションの一室。3畳ほどの部屋で、看板も出していない。それでも開業3年目から6年以上にわたって予約3ヶ月待ちが続くセラピスト・FUKIさん。これまでに触れてきた体は1万人を超える。今はその体の読み解き方を『臓活セラピスト®︎養成講座』として全国のセラピストに伝えており、受講生は70名を超えた。
しかし出発点は、結婚式場のスタッフだった。独立して最初の半年は予約が1件も入らず、「世の中の人からは、存在していないようなもの」と自分を見ていたという。師と呼べる人はおらず、教科書にも載っていない答えを、お客様の体を頼りに探してきた。これは、誰にも教わらなかった一人のセラピストが、”本当の自信”にたどり着くまでの16年の物語である。
3畳、看板なし。それでも6年以上、予約は3ヶ月待ち
インタビュアー本日はよろしくお願いします。まずはFUKIさんのご活動について教えてください。



大阪でセラピストをしています。マンションの一室、3畳ほどの部屋ですが、ありがたいことに、6年以上、予約が3ヶ月待ちの状態が続いています。
筋肉や骨格ではなく、内臓の状態から体を読む「臓活」という方法で施術をしています。



臓活、ですか。



東洋医学では、あらゆる不調の原因は内臓にあると考えるんです。だから痛いところを直接ほぐすのではなく、ツボや経絡を通じて内臓にアプローチして、根本から整えていく。
内臓の疲れは顔色や肌、姿勢にも出るので、体に触れる前から、その方がどこに不調を抱えているかもある程度は分かります。
この読み方を、今はセラピストの方にもお伝えしています。もともとは対面で教えていたのですが、コロナ禍をきっかけに、2022年からはオンラインの『臓活セラピスト®︎養成講座』という形にしました。



講座にはどのような方が来られるんですか?



これまでに70名以上の方が受講されています。サロンをされている方が中心ですが、経歴はさまざまです。
ただ入り口はだいたい同じで、技術も知識もあるのに、自分の施術に自信が持てない。そんなセラピストの方が多いですね。




(オンライン講座と、対面講座の様子)
緩和ケアの病棟で、疲れていたのは家族だった



16年前、どういうきっかけでセラピストになられたんですか?



もともとは結婚式場にいたんです。ヘアメイクを施された新婦さんって、すごく綺麗じゃないですか。しかも式の数ヶ月前からエステにも通われていて、それも式場で全部やっていたので、綺麗になっていくのを間近で見ていたんです。
私もそのお手伝いがしたいなと思って、式場を辞めてエステサロンに勤めました。ただ1年くらいで、いわゆるエステみたいな女性のキラキラしたものが、ちょっと苦手だと気づいて。



それでエステの世界からは、離れることになるんですね。



エステサロンを辞めて、ボディがメインのサロンに移り、3、4年。そこが総合病院と提携していて、緩和ケアの病棟や、出産されたお母さんの病棟だったり。そんな患者さんたちを一人で担当していました。
それでお話を聞いていくと、疲れているのがご本人さんじゃなく、ご家族だったりするんですよね。ずっと気を張っている。なんかできることないかな、というのはありました。
綺麗にするより、しんどい人に寄り添えるほうがいいなと。そんな風に考えて独立を決めたんです。
開業して半年、予約はゼロ。「世の中からは、存在していないようなもの」



独立されてすぐは順調だったんですか?



じつはほとんどお客さんゼロで。それが半年くらい続きました。
甘いんですけど、寄り添えたらいいなという気持ちだけで、計画も何もないままフラフラと開業してしまって。知らない土地で、看板も出していなかったので。



半年、ゼロですか。厳しい時期だったかと思うのですが、日々どんなお気持ちで過ごされていたんですか?



「そりゃあ世の中の人からは、存在していないようになってるよな」という冷静な自分もいれば、「これはなんとかやっていかないといけない」という焦りだけが先走っている自分もいて。混在しているような感じでしたね。
それでも、何かやらないと。という気持ちで、ブログだけはやり続けようと。誰が読んでいるかも分からないまま、書き続けていました。



その1本目、2017年4月28日のものが今も残っていますね。



サロンのコンセプトも、初めての方へのおすすめのメニューも、施術で大事にしていることも、全部そこに書きました。
そんな時ちょうど半年経った頃に予約サイトへの掲載を始めて、そこで見つけてくださった方が、そのままブログも読んでくださったんです。ブログを読んだお客様からは「信用できそうだった」と言われましたね。



苦しい時期に積み上げてきたブログが実を結んだんですね。


(2017年4月、開業直後に書かれたブログ)
「なんで分かるんだ」。鍼灸師の夫が見ていた世界



東洋医学の知識を施術に使っているとお聞きしました。その当時はまだ東洋医学は取り入れていなかったんですよね。



そうなんです。癒しやリラクゼーションしか提供できなくて。
お客様に「何かしんどいところありますか」と聞くと、不調をおっしゃる方が増えてきて。「私の今できるサービスでは、そこまでは叶えられない」となって。



できることの限界に、ぶつかったんですね。



そう。そこで助けになったのが、鍼灸師だった主人です。主人の鍼灸院の受付も手伝っていて。
個室で主人が患者さんに、何にも聞いていないのに「あ、ここ、こうでしょう」とか言っているわけなんです。触って分かるみたいな。「なんで分かるんだ」って、やっぱり気になりまして。



ご主人は患者さんの不調を言い当ててたんですね。



主人は口で教えてくれる人じゃなくて、背中を見て覚えろ、というタイプで。言っていることを裏でメモって、専門用語は後で調べてその繰り返しです。
そうしたら主人が、東洋医学の本を山積みで「これ」とだけ言って置いていって。そこから東洋医学の勉強が始まったんです。



書籍を通じて、東洋医学の知識を学ばれていったと。



そうなんです。教わる相手がいなかったので、全部自分で確かめるしかなくて。
セラピスト養成講座のセミナーでも個別のご相談でも、最初にそうお伝えしています。「教えてもらってないですよ」って。
腰痛の人は、顔色が黒くくすむ。1万人の体が教えてくれた共通点



本を読んだだけでは、触って分かるようにはならないですよね。そこからどう変わっていったんでしょうか?



本当に少しずつなんですけど、体の共通点から拾っていくんです。教科書にも本にも載っていないので、数を集めて探すしかない。
たとえば、腰痛を持っている人は、顔色がくすみがちになってくるんですよ。黄色くすみと黒くすみがあるんですけど、どちらかというと黒くすみのほうに傾いてくる。猫背も、背中の上のほうで丸まっている人は、呼吸器の疾患やアレルギーを持っていたりとか。



教科書に載っていないことを、ご自分で体系化されていかれたんですね。



ただ、私だけの感覚だと絶対にダメなので、根拠は必ず調べていました。現場で気づいたことを、東洋医学の書籍で一つずつ確かめて紐づけていく。感覚を、書籍と実際の体の両方で裏づけていった感じです。



不調を言い当てられたら、お客様も驚きますよね。



お客様の反応が変わってきたのは、2020年、21年くらいからです。それまでは「すっきりしました」くらいだったのが、「占いのように体を当てられて、逆に怖いです」とか。
リラクゼーションサロンにはあまり来ないようなお声をいただくように。10人来られたら、9人は次回のご予約を入れていく、みたいな感じで。
お客様でも言語化できない、言い忘れている不調が必ずあるんです。それを、体を触ったら全部、私が先にお伝えしている。
しかも「そこが分かるから、こういう時しんどいでしょう」まで寄り添える。女性って、分かってほしい人が多いですから。


(施術の様子)
「あなたが楽しまないと、お客様に失礼だよ」



2022年からは講座を教える側にも回られていますよね。これまでの受講生の方で、印象に残っていることはありますか?



個別のご相談で涙される方が結構いらっしゃって。多分、その当時どん底だったんだと思います。
後から「あの時なんで泣いてたの」と聞いたら、「前の師匠から冷たい言葉を投げかけられて、セラピストとしての自信を失っていた」と。そういう方、実は多いんです。



その方たちは、そこからどう変わっていくんですか?



たとえば、タイ古式のサロンをされていた方。受講前は予約枠が半分ほどしか埋まっていませんでした。「また来ますね」と言ってくださっても、実際には来られない。
ご本人いわく、「次はどうされますか」と聞くのが本当は嫌だったそうなんです。でも言わないと生活できないから、言っていたと。
それが、見立てができるようになって、説明しながら施術するようになったら、お客様のほうから次のご予約を入れて帰られるようになった。今は2ヶ月先まで埋まっています。



「次どうされますか」を、言わなくてよくなったんですね。



そうなんです。理由ははっきりしていて、見立てができるからだと思います。
「こうこうこうだから、今こうなっている。だからこういう施術をしていくね」と説明できる。要は、頼りがいのあるセラピストになれるんですよね。
歴12年の方もいらっしゃいます。それまでは、どのお客様にも同じ施術しかできなかったそうなんです。それが「これでいいんだ、こうやったらいいんだ」と思えるようになって、12年目にして念願のサロンを開業されました。



12年目で、ようやく。



そうですね。でも一番変わるのは、セラピストって楽しいんだ、という根底の価値観なんです。それまでは、違うスクールの先生から「お客様の前でそんなことしたらダメでしょう」とか少し窮屈な教えの中で育った方がすごく多かったので。
私がよく「あなたが楽しまないと、お客様に失礼だよ」と言うので、そこで一度、価値観がひっくり返るみたいなんです。



施術を楽しむということですね。受講生の方から言われて、一番嬉しかった言葉はありますか?



講座が終わってもずっとコミュニティに残ってくださる方がいて。理由を聞いたら、「このメソッドに出会って、初めて自分で自分のやっていることを認められた」と言ってくださって。



自分で自分を認められた、というのは大きいですね。



そこは、私自身も通ってきた道なんです。自分で自分を認められないと、お客様の「良かった」という評価で埋めるしかなくなるんですよね。
お客様のために、と思って、休みと決めた日でもわざわざ開けたりして。どんどんしんどくなって、いいサービスを提供するには私が幸せでないといけないなと。
手で直接お体に触れるので、しんどいなと思いながらやっていると、絶対にお客様にも伝わってしまうと思うんです。




(講座での実技指導の様子)
「自分で納得できる施術ができる。そこが、本当の自信だと思うんです」



みなさん「自信をつけたい」と言って来られる。FUKIさんが考える「本当の自信」とは、どういうものでしょうか?



私も自信が欲しくて、技術も知識も足してきました。
それもとても大事なんですけど、本当の自信は、そこだけじゃないと思っていて。そこで得られるのは、「気持ち良かったです」「また受けたいです」という、他者からいただく承認なんですよね。
でも私が思うのは、目の前の体をどう見立てて、どう根拠ある施術をするか。自分で本当に、心から納得できる施術ができた。と自身で思えること。
それがないと、「良かったよ」と言っていただいても、「なんかこの施術でよかったのかな」がどこかにずっと残ってしまうんです。



自分の中での納得感なんですね。最後に、これからやっていきたいことを教えてください。



私が叶えたいのはスキルアップの先にある、受講生さんの人生が豊かになることなんです。お客様の不調をよくするのは表向きのゴールで、本当の目的は、私たちセラピストが幸せになること。
満足はしなくていいんですよ、上を目指していくためにも。ただ、次の課題を持ったまま、今日の自分にはこれで納得できると言える。その状態を、セラピストのみなさんにも持っていてほしいんです。
セラピストのための、体の不調を東洋医学で読み解く
『臓活セラピスト®︎養成講座』
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