日本とマレーシアを行き来しながら、300〜400人もの親子が参加するオンライン英語講座「バイリンガルリンク」を主宰する、中村ちこさん。彼女の講座には、単なる英語学習に留まらない、親と子の人生を輝かせるための深い哲学が息づいている。
その原点は、幼い頃に亡くした母との大切な記憶と、「英語は“ジャッジされない世界”への扉」だという確信にあった。コロナ禍で家庭が危機に瀕したどん底の経験を経て、彼女は自身の使命を見出す。これは、一人の女性が逆境を乗り越え、多くの親子の希望となるまでの軌跡を辿る物語だ。
300人の親子が学ぶ「バイリンガルリンク」とは
インタビュアー本日はよろしくお願いします。
早速ですが、ちこさんのご活動について教えていただけますか?



はい。私は「バイリンガルリンク」という、オンラインの英語基礎講座を運営しています。
幼児から小学校6年生までのお子さんとその親御さんを対象にしていて、現在300名から400名ほどの親子が参加してくださっています。兄弟で参加される方も多いですね。
この講座の特徴は、親子が一緒に自宅のなかで英語と日本語を使って対話することで、自然とバイリンガルを目指していく点にあります。



すごい規模ですね。
具体的には、どのようなことを教えていらっしゃるのでしょうか?



私たちが伝えているのは、日本の生活環境の中で、どうすれば子どもたちが日本語と英語の両方を習得できるか、という具体的なノウハウです。
単に英語を教えるというよりは、親子で英語に触れる環境づくりのサポートをしています。


英語コンプレックスは親の武器? 母も子も夢を叶える講座の秘密



講座には、どのような方が参加されることが多いですか?



まず、お子さんの将来の選択肢を広げてあげたい、という教育熱心なお母さんが多いですね。
ほとんどのお母さんがそうだと思いますが、特に私たちの講座に来てくださる方には共通点があります。



共通点、ですか?



はい。それは、「自分自身(母親自身)の夢も諦めたくない」という想いです。
お子さんに英語教育を、と考える方の根底には、ご自身の英語に対するコンプレックスがある場合が少なくありません。
かつて挫折してしまった英語学習にもう一度向き合い、今度は子どもと一緒に英語力を伸ばしていきたい。
そして、英語を使って自分の夢も叶えたい、と考えているお母さん方が集まってきてくださいます。




(講座内の勉強会の様子)



お子さんのためだけでなく、ご自身のためでもあるんですね。
日本人は英語に苦手意識を持つ人が多いと聞きます。



本当に多いですよね。
特に海外と比べると、日本の方は英語コンプレックスが非常に強いと感じます。
日本の英語教育は、どうしてもテストの点数で評価されますよね。実践の場よりも、マルバツで測られてしまう。
それが原因で英語が嫌いになってしまう方も多いようです。



なるほど。そういった英語への苦手意識や挫折した経験も、バイリンガルリンクでは前向きな力に変えていける、ということでしょうか。



その通りです。
私たちの講座では「とにかくふざけていこう」と伝えています。
大人も子供も、楽しみながら英語に触れることを大切にしています。
かつて嫌いになった英語を、今度は親子で一緒に楽しく学び直す。
その過程こそが、何よりもの価値だと考えています。




(リアルイベントの様子)
顔にコンプレックスがあった私を救った、母との強烈な原体験



ちこさんご自身が、これほどまでに英語教育、特に親子の在り方に情熱を注がれるようになった「原点」はどこにあるのでしょうか?



全ての原点は、私が小学校2年生の時に亡くなった母との、忘れられない思い出にあります。
私は幼い頃、顔に大きなあざがあり、それが強いコンプレックスでした。そんな私を、母はなぜかある時、海外の方と交流できるイベントに連れて行ってくれたんです。


(右下が幼少期のちこさん)



お母様は、ちこさんに何かを感じてほしかったのかもしれませんね。



今思えば、そうだったのだと思います。
その時、イベントで出会ったスリランカ人の女の子と、言葉が通じないながらもジェスチャーで必死にコミュニケーションをとりました。
その横で、母も身振り手振りと、たどたどしい英語で一生懸命話している。その光景を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けました。
「あ、言葉が違っても、肌の色や見た目が違っても、ここには私を色眼鏡で見る人がいない。英語は、ジャッジされない世界への扉なんだ」と。



その体験が、ちこさんの人生の道標になったのですね。



はい。その強烈な原体験があったから、母が亡くなった後も、中学校からは独学で英語の勉強にのめり込みました。
いつか、あの自由な世界に行きたい、その一心でしたね。
英語と共に歩んだ模索の日々



その想いを胸に、その後はどのように英語と関わってこられたのですか?



社会に出てからは、とにかく「英語が使える仕事」という軸だけで、航空業界や外国人のALTを派遣する会社など、様々な職を転々としました。
結婚・出産を機に一度は仕事を辞めたのですが、やはり英語から離れられなくて(笑)。
近所の英会話教室でアシスタントを始め、そこから外国人講師に日本語を教える「日本語教師」になったり、ママ友に頼まれて自宅で小さな英語教室を開いたりと、常に英語と共にありました。



常に英語には触れていたけれど、まだ現在の活動の形ではなかったのですね。



そうなんです。振り返れば、ずっと模索していたのだと思います。
私にとって英語とは何なのか、この情熱をどうすれば形にできるのか。その答えが見つからないまま、目の前のことに必死に取り組む毎日でした。




(当時のちこさんと娘さん)
コロナ禍で訪れた「どん底」と人生の転機



そんな模索の日々から、現在の講座を立ち上げる直接のきっかけは何だったのでしょうか?



大きな転機になったのは、コロナ禍でした。夫が突然倒れて働けなくなり、私も日本語教師の仕事はありましたが、子どもの面倒を見ながらでは収入も不安定で…。
これからどうやって生きていこう、と。まさに、人生のどん底でした。



それは、想像を絶するご苦労だったと思います。



本当に苦しかったですね。もう自分でビジネスを立ち上げるしかないと試行錯誤をしました。でも、どん底でもがきながら自分の人生を必死で見つめ直した時、全ての点が一本の線で繋がりました。
幼い頃、母が私に見せてくれた「ジャッジされない世界」。英語で人生を切り拓こうと必死だった自分。
そして今、目の前で英語を学ぶ親子たちの姿…。『私が本当に届けたいのはこれだ!』と。



過去と現在が繋がり、使命が見えた瞬間だったのですね。



はい。「母が私にくれた希望を、今度は私が多くの親子に届ける番だ」。そう確信してからは、もう迷いはありませんでした。
あの苦しい時期があったからこそ、自分の使命を見つけることができたんです。


「英語を教えるのをやめたら、親子で輝き始めた」その真意とは



使命を見つけて立ち上げた講座には、多くの親子が集まっておられます。実際に参加されたご家庭では、どのような変化が起きていますか?



語りきれないほどありますが、面白いのはお母さんたちの変化です。
最初は「子どもの英語力を伸ばしたい」と入ってこられるのですが、途中から「あれ?これって私がやりたかったことだ!」と、ご自身の夢に火がつくんです。



お子さんより、お母さんの方が夢中になっていくのですね。



そうです。「子どもはさておき、まず私がディズニーのプリンセスと話したい!」「外国人にインタビューしに行く!」と、どんどん行動的になっていくんです。
そんなお母さんの輝く姿を見て、お子さんも変わります。
引っ込み思案だった子が自信に満ちた表情になったり。お母さんが輝けば、お子さんは自然と、本当にメキメキと伸びていくんです。



素晴らしい連鎖ですね。



だから私は、矛盾しているようですが「英語を教えたくない」とさえ思っています。
英語はあくまで、親子が共に輝くためのツール。文法の正しさよりも、その先にある自分を解放し、世界を広げる体験こそが本質だと伝えたいんです。




未来へ繋ぐ親子の物語。母から子へ、そして社会へ



最後に、ちこさんが描いている今後のビジョンについてお聞かせください。



大きなビジョンですが、二つあります。
一つは、かつての母がそうであったように、今、生きづらさを感じているお母さんたちや、幼い頃の私のようにコンプレックスを抱える子どもたちに、英語というツールを届けたい。
特に、経済的な理由などで英語に触れる機会のない子どもたちにも、当たり前にアクセスできる環境を作っていくのが目標です。
母が私を孤児院に連れて行ってくれたように、社会に貢献できる企業でありたいと思っています。



素晴らしいビジョンですね。



もう一つは、お母さん自身のマインドへのアプローチです。
英語コンプレックスの裏には、自己肯定感の低さや子育てへの迷いが隠れていることが多い。そこにもっと寄り添い、お母さん自身が解放されるような働きかけをしていきたいです。
この活動の根底には、いつも亡き両親への感謝があります。人生を楽しめなかった両親の分まで、私が人生を楽しみ、その姿を子どもたちに見せる。
そして、子どもたちがまた次の世代に繋いでいく。そんな幸せの連鎖を、この講座を通して作っていけたら、と思っています。



お話を聞いて、バイリンガルリンクが多くの親子に支持される理由がよく分かりました。
ちこさんの生き様そのものが、講座の魅力になっているのですね。本日は、本当にありがとうございました。



こちらこそありがとうございました!
オンラインの英語基礎講座
「バイリンガルリンク」


