インタビュー記事

「土づくりがわかれば、栽培はもっと面白くなる」——農業未経験の元ヨガインストラクターから、土づくりの専門家になるまで

福岡県うきは市で、兼業農家として畑に立ちながら「土づくりアドバイザー」として全国の農家を支える宮崎摩耶さん。農業とは無縁だった元ヨガインストラクターが、コロナ禍をきっかけに土の世界にのめり込み、失敗や予想もしなかった試練を乗り越えながら辿り着いた現在地。

「土づくりがわかれば、栽培はもっと面白くなる」——その言葉の裏にある原体験と想いに迫る。

目次

ヨガの先生が、なぜ農家に?

インタビュアー

まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?

摩耶さん

福岡県うきは市で兼業農家をしながら、「新・ファン農業実践会」という講座で土づくりの部分を担当しています、宮崎摩耶です。個人農家さん向けに、栽培の土台となる土づくりの理論をお伝えしています。

インタビュアー

土づくりの専門家なんですね。もともと農業をされていたんですか?

摩耶さん

全くないんです。もともとはヨガのインストラクターとして活動していました。身体のこと、筋膜、瞑想、呼吸法——とにかく体のことばかり学んでいて、地元でもレッスンをしていたんです。

インタビュアー

ヨガの先生から農業へ、というのは大きな変化ですね。

摩耶さん

本当にそうですよね。コロナでレッスンができなくなった時に、ヨガの後に生徒さんとハーブティーを飲む時間がすごく好きだったことを思い出して。

そのハーブを自分で育てられたらいいなと思って、知り合いの畑の一角を借りて苗を植えてみたのが始まりでした。

「大事なのは、苗じゃなくて土だ」

インタビュアー

そこからどうやって農業の世界に入っていったんですか?

摩耶さん

素人ながらに苗を植えてみて、直感的に思ったんです。「大事なのは苗じゃなくて、土なんじゃないか」と。

でも、土のことを教えてくれるところなんてどこにもなくて。友人に紹介してもらった農家さんに「土づくりを教えてください」とお願いしたら、「なんでお前なんかに教えなきゃいけないんだ」と一蹴されました。

でもその方が「本気で学びたければここに行きなさい」と教えてくれたのが、私が通うことになった有機栽培の学校だったんです。

インタビュアー

その学校で、何か転機になるようなことがあったんですか?

摩耶さん

実習で、真夏に土づくりから始めて冬に収穫したほうれん草を食べたんです。もう衝撃でした。えぐみがなくて、甘くて、「また食べたい」と思うほうれん草なんて初めてで。

土づくりでここまで変わるのかと。

その時ちょうど息子が2歳で、「この子たちの未来のために、元気な野菜を残していける人がどれだけいるだろう」と思って。ここに自分の人生をかけてみようと決めました。

試行錯誤の3年間——失敗も記録も、全部が土台になった

インタビュアー

学校を卒業されてからは、すぐに就農されたんですか?

摩耶さん

はい、2021年にぶどう農家として一人で始めました。学んだことをとにかく素直に実践したんですけど、1年目は大失敗。「なんじゃこれ」という結果でした。

しかもJA出荷してみたら、ランク制度でAでもBでもCでもなく「ランク外」。「もしかしてSクラス?」と思ったら、ベテランのおばちゃんに「あんた、それ最低ランクよ」って(笑)。

土づくりにこだわっても、見た目が整わないと市場では評価されないんですよね。

インタビュアー

そこからどう立て直していったんですか?

摩耶さん

まず栽培の面では、有機栽培の技術ばかりに目を向けていたのを反省して、「土壌そのものを見ないといけない」と気づいたんです。

2年目から土壌医の資格試験をきっかけに、土壌の勉強を徹底的にやり直しました。うまくいったことも失敗したことも、とにかくデータを取り続けて。

記録を積み重ねていくと、点が線になって、線が面になっていく感覚があって。

インタビュアー

3年間ずっと記録を取り続けたんですか。

摩耶さん

はい。3年目にはぶどうも立派にできるようになりました。

インタビュアー

販売の方はどうされたんですか?

摩耶さん

秀太さんに相談して、直販のやり方を教わりました。届けたい人にちゃんと届ける発信に切り替えて。

ヨガのインストラクター時代の公式LINEに300人ほど登録者がいたので、そこに「ぶどうができました」と案内したら、元生徒さんたちが買ってくれたんです。

そこからInstagramでも発信を続けていたら、畑に来て「どんな土づくりをしているんですか?」と聞かれることが増えて。地元のママたちに体験農園で土づくりを教えたり、福岡県の女性農家さんを集めて肥料づくりの教室をやったり。そういう活動を続けるうちに、「知りたい人ってこんなにいるんだ」と気づいたんです。

水害で失った、3年間の土づくり

インタビュアー

直販もうまくいき始めて、これからという時期ですよね。

摩耶さん

それが、3年かけて土づくりをしてきた畑が水害に遭ったんです。大雨で水が溢れてきて排水もできなくなって、ぶどう園が腰の高さまで浸かった。どんどん枯れていくのを見ていることしかできなくて……。

地主さんにも「この畑はもう閉めよう」と言われて。これからという時に全部なくなって、本当にお先真っ暗でした。

インタビュアー

3年間積み上げてきたものが……。

摩耶さん

そんな時に、秀太さんが声をかけてくれたんです。「うちの農園に来ない?」って。後から聞いたら、もともと私を農園と講座に誘おうとは思っていたらしいんですけど、それは2年後くらいの予定だったそうで。あまりにも早く行き先を見失ったもんだから、前倒しで30枚の資料を準備してプレゼンしてくれました。

信頼関係もあったし、「いいタイミングだな」と感じて。そこから産直農園しゅうたの畑に合流して、今の形になりました。

難しい言葉は使わない。非農家出身だから伝えられること

インタビュアー

今は講座ではどれくらいの方に教えているんですか?

摩耶さん

今40名弱ですね。おそらく全国でも、ここまで女性が多い農業コミュニティはうちくらいじゃないかと思います。

農業の勉強会や学校は先生も生徒もほとんど男性ですから。女性が土づくりを教えていること自体が珍しくて、それが大きいのかなと。

インタビュアー

女性中心の農業コミュニティは珍しいですね。教える上で大事にしていることは?

摩耶さん

絶対に難しい言葉を使わないことです。

私自身が非農家からのスタートだったので、農業用語の壁にものすごくぶつかったんですよ。「耕運」「播種」「定植」——もう何のことかわからなくて。

だから自分の講座では、誰にでもわかる言葉で伝えると決めています。高校が理系で化学が得意だったので、土壌科学の元素記号や化学式もかみ砕いて説明できるんです。

受講生から「摩耶さんの説明を聞いた後に農業の本を読むと、全部つながる」と言ってもらえるのが、一番嬉しいですね。

インタビュアー

講座をやっていて、一番楽しいのはどんな時ですか?

摩耶さん

コンサルで受講生の土壌を一対一で見る時間ですね。沖縄、山形、新潟、山梨——全国いろんな方の土壌を実際に見られるんです。

教科書で「関東はこういう土壌」「東北はこういう土壌」とは学んでいたけれど、実際にワークで40センチ掘った断面図の写真や、土を握った時の感触を聞くと、「なるほど、こんな土壌か」って。

何十人もの土壌診断の結果を見ていると、この数値の人はこの肥料を使っているなというパターンまで見えてくる。

もう楽しくて楽しくて仕方がないです。これは自分にとって天職だなと思いますね。

土づくりがわかれば、農業はもっと面白くなる

インタビュアー

最後に、摩耶さんがこれからやっていきたいことを教えてください。

摩耶さん

土づくりに自信を持っている農家さんって、実はほとんどいないんです。

「うちの野菜は味が濃いと言われる」と話す方でも、なぜそうなるのかを説明できる人は少ない。でも土づくりがちゃんとわかると、病気が出た時にも「もしかしてこれが原因かもしれない」と仮説が立てられるようになる。

原因がわからなければ神頼みするしかないけれど、わかれば来年の対策が立てられる。そうなると、栽培が面白くなるんです。

インタビュアー

神頼みか、仮説か。その差は大きいですね。

摩耶さん

そうです。特に女性は、男性のように大規模化するのではなく、小さいからこそ目が行き届く農業ができる。

農業と教育を掛け合わせたり、農業と体験を掛け合わせたり、自分らしいスタイルを見つけている方がすごく多いんです。その土台にある栽培の部分で自信をつけてもらって、「農業って楽しい、面白い」と思ってもらえるきっかけになれたら。

私はそのために、土づくりという見えない世界を、もっとわかりやすく見えるように伝えていきたいと思っています。

個人農家さんのための
『新・ファン農業実践会』

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